「先生の教え方が悪いから成績が上がらない」「うちの子だけ対応が悪い」「今すぐ責任者を出せ」—学習塾には、塾業界特有の保護者からのクレームが起きやすい環境があります。
お子さんの将来に関わる場所だからこそ、保護者の思いが強くなる。それ自体は自然なことです。でも、その言動が一線を越えたとき、それはカスハラになります。
2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法によりカスハラ対策がすべての事業主の義務になります。学習塾も例外ではありません。今日は、塾特有のカスハラの実態と、義務化に向けた対応をお伝えします。
学習塾で起きやすいカスハラの具体例
学習塾では、こんなケースがカスハラに該当することがあります。
①長時間・繰り返しのクレーム電話
「なぜ成績が上がらないのか」「先生を変えてほしい」という要望自体は正当なクレームです。でも、閉塾後の深夜に何度も電話をかけてくる、同じ内容で1時間以上話し続ける—これは正当なクレームの範囲を超えてくる可能性があります。
②土下座・謝罪文の強要
「責任者を連れてきて謝れ」「文書で謝罪しろ」という要求が、社会通念上の範囲を超えていると判断されればカスハラに該当します。
③SNSでの過剰な批判・脅し
「ネットに書く」「口コミで評判を下げてやる」という脅しは、脅迫にあたる可能性があります。
④合理的な範囲を超えた要求
「返金しろ」「講師を解雇しろ」など、塾側の対応能力や権限を超えた要求を繰り返す場合もカスハラに該当する可能性があります。
私自身が学習塾で働いていた時にも、「成績が上がらないのは講師の質が悪いからだ」という内容の電話を塾長が1時間以上対応していることが実際にありました。
10年以上前なので今ほど「カスハラ」という概念がなかったこともあり、ただただ平謝りするしかなかったようです。
小さい塾だったので、電話越しに保護者が怒っているという雰囲気が塾全体に伝わり、生徒や他の講師たちも居心地悪そうでした。
なぜ学習塾はカスハラが起きやすいのか
学習塾がカスハラを受けやすい背景には、塾特有の事情があります。
成果が見えにくいサービスであること、保護者の期待値が高いこと、担当講師との関係が密接なこと—これらが重なって、クレームが感情的になりやすい環境があります。
また、小規模な塾ほど「お客様だから」という意識が強く、理不尽な要求でも講師一人が対応し続けてしまうケースが多いです。講師が我慢している間に、気づかないうちに心身を消耗させてしまいます。
カスハラを放置するとどうなるか
カスハラへの対応を放置すると、こんな問題が起きます。
①講師の離職につながる
「保護者対応が怖い」「クレームを一人で抱えるのが限界」という理由で辞めていく講師は少なくありません。採用・育成のコストをかけた講師が、保護者対応を理由に辞めてしまうのは、塾にとって大きなダメージです。
②メンタルヘルスの問題
繰り返しのクレーム対応は、講師の精神的な負担になります。安全配慮義務として、塾側にはスタッフのメンタルヘルスを守る責任があります。
③法的リスク
カスハラ対策を怠って講師が被害を受けた場合、安全配慮義務違反として損害賠償請求を受けるリスクがあります。
カスハラ対策義務化に向けて今すぐやるべきこと
2026年10月のカスハラ対策義務化まで残り3ヶ月を切っています。学習塾として、今すぐ対応してほしいことが3つあります。
①「カスハラは許容しない」という方針を明文化する
就業規則や社内ルールに、カスハラへの対応方針を明記する。「保護者からの理不尽な要求には組織として毅然と対応する」という方針を、書面で示すことが第一歩です。
②講師が一人で対応しない仕組みを作る
クレームが来たら必ずオーナーや責任者に報告する、電話対応は録音する、対応の記録を残す—こういったルールを決めておくだけで、講師の負担が大きく減ります。「困ったらすぐ言って」という空気を作ることも大切です。
③「どこからがカスハラか」の基準を決めておく
正当なクレームとカスハラの境界を、事前に決めておく。たとえば「閉塾後の電話には対応しない」「同じ内容のクレームには文書で回答する」といったルールを作っておくと、現場が判断しやすくなります。
「うちは大丈夫」と思っているオーナーへ
カスハラは、表面化しにくい問題です。講師が「言っても仕方ない」と思って一人で抱え込んでいることが多いからです。
「クレームを言ってくる保護者がいる」「電話対応が嫌だと言っている講師がいる」—そういった状況があれば、すでにカスハラが起きているかもしれません。
義務化の期限を待たず、今のうちに対応方針を整えておくことが、講師を守ることにつながります。「就業規則にカスハラの規定を入れたい」「対応マニュアルを作りたい」という段階からでも、お気軽にご相談ください。
