「就業規則は、従業員が10人以上になったら作るもの」

そう思っている経営者の方は少なくありません。確かに労働基準法上、就業規則の作成・届出が義務になるのは常時10人以上の従業員がいる事業所です。

でも、「義務がないから作らない」と「作らなくていい」は、まったく別の話です。

むしろ小規模な事業者こそ、早めに就業規則を整えておく価値があります。今日はその理由をお伝えします。


就業規則がないと、何が起きるのか

就業規則がない状態でスタッフを雇うということは、「ルールのない職場」で働いてもらうということです。

一見、柔軟でいいように思えます。でも実際には、こんな問題が起きやすくなります。

「言った・言わない」のトラブル 「有給休暇は入社半年後から取れると言われた」「残業代は出ると聞いていた」「試用期間中でも給与は同じだと思っていた」——口頭での約束は、後になって食い違いが生じやすい。書面でルールが明確になっていないと、どちらの言い分が正しいか判断する根拠がなくなります。

問題行動への対応が難しくなる 無断欠勤が続くスタッフに対して、注意・指導・最終的には解雇という対応を取りたくても、就業規則がないと「どの段階でどう対応するか」の根拠がなくなります。感情的な対応になりやすく、逆に会社側がトラブルを抱えるリスクもあります。

退職・解雇をめぐるトラブル 「突然辞めると言い出した」「こちらから辞めてほしいのにどう伝えればいいかわからない」——退職・解雇に関するルールが明文化されていないと、双方にとって不安定な状態が続きます。


「うちは家族みたいな雰囲気だから大丈夫」という落とし穴

小規模な職場ほど、オーナーとスタッフの距離が近い。「うちはみんな仲がいいから、そんな堅苦しいものは必要ない」と思われることがあります。

でも、関係が良好なときほど、ルールの不在は見えにくい。問題が起きるのは、いつも「まさかこの人が」というタイミングです。

長年一緒に働いてきたスタッフが突然退職を申し出た。信頼していたスタッフが売上を持ち出していた。仲が良かったからこそ、曖昧にしてきたことが一気に表面化する——そういったケースが、現実には少なくありません。

関係が良いうちにルールを作ることが、その関係を守ることにつながります。


小規模だからこそ、早めに作る3つの理由

①一人辞めるダメージが大きい 5人の職場で一人辞めると、残りの4人への影響は計り知れません。採用・育成のコストも、大企業より相対的に大きい。トラブルを未然に防ぐ仕組みが、小規模事業者にこそ必要です。

②成長するタイミングで慌てなくていい 「従業員が増えてきたから就業規則を作ろう」と思ったとき、すでに慣習や口約束が積み上がっていて、整理が大変になることがあります。小さいうちから作っておく方が、シンプルで実態に合ったものが作れます。

③採用で信頼感が出る 就業規則がきちんと整っている職場は、求職者から見て「しっかりした職場」に映ります。特に若い世代は、労働条件の透明性を重視する傾向があります。採用競争が厳しい今、就業規則の整備は採用力にも直結します。


「ちょうどいい」就業規則とは

就業規則というと、分厚い冊子を想像する方もいるかもしれません。でも小規模な事業者に必要なのは、難しい法律用語が並ぶ複雑なものではなく、「自分たちの職場のルールが、わかりやすく書かれているもの」です。

就業規則には、法律で必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」があります。

①労働時間に関すること 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇。シフト制や交替制の場合は、その切り替えに関するルールも含みます。

②賃金に関すること 給与の決め方・計算方法・支払い方法、締め日と支払い日、昇給に関するルール。

③退職に関すること 自己都合退職・解雇の事由を含む退職に関するルール。

この3つは、規模にかかわらず就業規則に必ず盛り込む必要があります。これに加えて、自社の実態に合わせて必要なルールを加えていくのが、「ちょうどいい就業規則」の作り方です。

難しい法律用語で固める必要はありません。「過度に複雑にしない」ことが、小規模事業者の就業規則づくりのポイントです。


「うちの規模で社労士に頼んでいいのか」という方へ

就業規則の作成は、社労士の専門業務の一つです。「うちは小さいから」「まだそこまでじゃないかな」と思っている方こそ、ぜひ一度相談してみてください。

今の職場の状況をお聞きしながら、必要なものを一緒に考えます。難しい法律用語ではなく、実際に使える言葉で、御社に合ったルールを作るお手伝いをします。

「まず話を聞いてほしい」という段階からでも、お気軽にどうぞ。