「試用期間中は給与を少し下げてもいいよね?」
「試用期間中は社会保険に入れなくていいんじゃないの?」
スタッフを初めて採用した方から、こういった質問をよく受けます。どちらも「なんとなくそういうものだと思っていた」という方が多いのですが、実は法律上の正しい理解とズレていることがあります。
今日は、試用期間中の給与と社会保険の扱いについて、お伝えします。
結局、試用期間中の給与は下げていいのか
結論から言うと、試用期間中の給与を本採用より下げること自体は、法律上禁止されていません。ただし、条件があります。
最低賃金は必ず守る必要がある
試用期間中であっても、都道府県ごとに定められた最低賃金を下回る賃金を設定することはできません。「試用期間だから最低賃金以下でいい」は通用しません。
雇用契約書・労働条件通知書に明記する必要がある
試用期間中の賃金を本採用より下げる場合、その旨を雇用契約書や労働条件通知書に明記しておく必要があります。口頭での説明だけでは不十分です。「聞いていない」「そんな話はなかった」というトラブルを防ぐためにも、書面で明確にしておくことが大切です。
下げ幅には合理的な範囲がある
試用期間中の給与と本採用後の給与を変更する場合には、試用期間を設ける目的や期間の長さ、試用期間中の業務と本採用後の業務の差などを考慮して決める必要があります。試用期間中の賃金を下げる場合は、本採用の賃金と大きくかけ離れない範囲にとどめることが安全です。
手当についても原則は支給が必要
試用期間中だから、と言って正社員に支払っている手当を支給しないケースもあります。就業規則等に明記をしていれば問題ないケースもありますが、どこにも明記されていない場合、勝手に会社側が手当の支給をしないと決定することはできません。
給与の扱いは、スタッフのモチベーションにも直結する
試用期間中の給与設定は、法律の話だけではありません。スタッフが「この職場で頑張ろう」と思えるかどうかにも、大きく関わっています。
入社直後は、誰でも不安を抱えています。新しい環境に慣れようとしながら、「ここで長く働けるだろうか」「評価してもらえるだろうか」と感じている時期です。
そのタイミングで「試用期間中は給与を下げる」という設定をする場合、その理由と本採用後の給与水準を明確に伝えることが大切です。「なぜ下がっているのか」「いつから上がるのか」がわからないまま働かせると、スタッフの不安や不満につながりやすいです。
逆に、給与の根拠を丁寧に説明して、評価の基準を明示することで、「頑張れば認めてもらえる」という意欲が生まれます。試用期間は、スタッフとの信頼関係を作る最初の大切な時間でもあります。
試用期間中の社会保険は、入れなくていいのか
こちらはより誤解が多いポイントです。
試用期間中であっても、社会保険(健康保険・厚生年金)の加入要件を満たしていれば、入社日から社会保険に加入させる義務があります。「試用期間が終わってから加入させよう」は、法律上認められていません。
社会保険の加入要件
週の所定労働時間が正社員の4分の3以上(おおむね週30時間以上)であれば、原則として社会保険に加入する必要があります。
試用期間中だから、まだ本採用が決まっていないから——こういった理由で加入を遅らせることはできません。加入が遅れると、後から遡って手続きをしなければならなくなり、スタッフへの影響も出ます。
雇用保険も同様です
雇用保険についても、試用期間中から加入が必要です。
週20時間以上勤務し、31日以上の雇用見込みがある場合は、雇用保険の加入要件を満たします。こちらも試用期間中であることは関係ありません。入社日から速やかに手続きを行う必要があります。
試用期間中の解雇について
試用期間中は「合わなければ辞めてもらいやすい」と思っているオーナーも多いですが、これも誤解があります。
試用期間中であっても、採用から14日を超えた場合は、解雇予告(30日前の予告、または30日分の解雇予告手当の支払い)が必要です。採用から14日以内であれば解雇予告は不要ですが、それ以降は通常の解雇と同じルールが適用されます。
ただし、労働基準法上は上記で手続き上問題はありませんが、解雇は労働契約の解約ですので、民事上、この場合の解雇(解約権の行使)が有効となるためには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として認められる場合と解されることが必要です。
「試用期間中だからいつでも辞めてもらえる」という認識は、トラブルのもとになります。
採用のタイミングで整えておくべきこと
スタッフを採用するタイミングは、労務の仕組みを整えるベストタイミングでもあります。
雇用契約書・労働条件通知書の作成、社会保険・雇用保険の加入手続き、就業規則への試用期間の規定の明記——これらを採用のたびにきちんと対応することで、後々のトラブルを防げます。
「初めてスタッフを採用した」「採用の手続きが合っているか不安」という方は、お気軽にご相談ください。採用時の手続きから、その後の労務管理まで、一緒に整えていきます。
