薬局で薬剤師を雇うとき、「業務委託」という形で契約しているケースが増えています。

人手不足の中で柔軟に人員を確保できる、社会保険料の負担を抑えられる—そういった理由から、業務委託を選ぶ薬局経営者は少なくありません。

でも、「業務委託のつもりで契約していたのに、実態は雇用と変わらない」という状態になっていると、後から大きなトラブルに発展することがあります。

今日は、業務委託と雇用の違いと、薬局経営者が知っておくべきリスクについてお伝えします。


業務委託と雇用、何が違うのか

まず、両者の基本的な違いを整理しておきましょう。

雇用契約
薬局と薬剤師が雇用関係を結ぶ形です。薬局の指揮命令のもとで働き、労働基準法・社会保険・雇用保険が適用されます。残業代・有給休暇・産休育休なども保障されます。

業務委託契約
薬剤師が個人事業主として薬局と契約する形です。自分の裁量で仕事を進め、成果に対して報酬を受け取ります。労働基準法は適用されず、社会保険・雇用保険も自分で手配する必要があります。


「偽装業務委託」という落とし穴

問題になりやすいのが「偽装業務委託」です。

契約書上は「業務委託」になっているのに、実態は雇用と変わらない——こういった状態を指します。

具体的には、こんなケースが該当します。

薬局の指定した時間に出勤しなければならない、業務の内容・やり方を細かく指示されている、他の薬局での仕事を断るよう求められている、薬局のユニフォームを着用させられている—これらは、実質的に「使用者の指揮命令下に置かれている」状態であり、業務委託ではなく雇用と判断される可能性が高いです。


偽装業務委託が発覚したときのリスク

「業務委託のつもりだった」では済まされないケースがあります。

社会保険の遡及加入
実態が雇用と判断された場合、過去にさかのぼって社会保険への加入が必要になることがあります。その場合、薬局側が負担すべき保険料を追加で納付しなければならないケースがあります。

残業代の未払い請求
雇用と判断された場合、労働基準法が適用されます。時間外労働をしていた場合、残業代を請求される可能性があります。

フリーランス保護新法への対応
2024年11月に施行されたフリーランス保護新法により、業務委託契約における発注者側の義務が明確化されました。契約内容の書面交付、報酬の支払い期日の明示、一方的な契約解除の禁止など、これまで曖昧にされてきたことへの対応が必要になっています。規模にもよりますが、「取適法」も合わせて確認しておきましょう。


業務委託が適切なケースと、そうでないケース

業務委託自体が悪いわけではありません。実態に合った契約形態であれば、双方にとってメリットがあります。

業務委託が適切なケース
特定の業務(例:在宅訪問服薬指導)を成果ベースで依頼する、働く時間・場所・方法を薬剤師自身が決められる、複数の薬局と契約して自分のスケジュールで動いている—こういった状態であれば、業務委託として適切です。

雇用に切り替えるべきケース
毎日決まった時間に出勤させている、業務の内容を細かく指示している、薬局の一員として継続的に働かせている—こういった状態であれば、実態に合わせて雇用契約に切り替えることが安全です。


スポットバイト(単発派遣・紹介)の扱いにも注意

薬局では、急な欠員や繁忙期に対応するため、スポットバイトを活用するケースも多くあります。

スポットバイトには、大きく2つの形態があります。

派遣会社経由のスポット派遣
派遣会社と薬局が派遣契約を結び、派遣会社に雇用された薬剤師が薬局で働く形です。薬剤師の雇用主はあくまで派遣会社であり、薬局は派遣会社に対して派遣料金を支払います。労務管理の責任の多くは派遣会社が負いますが、業務上の指揮命令は薬局が行います。

マッチングサービス経由のスポット
近年増えているのが、薬剤師と薬局をつなぐマッチングサービス経由での単発対応です。このとき、薬局と薬剤師が直接業務委託契約を結ぶ形になることがあります。

注意が必要なのは後者です。単発であっても、薬局が細かく指示を出して管理している場合、実態は雇用に近いと判断されるリスクがあります。また、1日単位の短期であっても、雇用と判断された場合は労働保険の手続きが必要になるケースがあります。

スポットの活用自体は問題ありませんが、どういうサービスを利用するのか、契約形態と実態が一致しているかどうかは、都度確認しておくことをおすすめします。


管理薬剤師は業務委託にできない

特に注意が必要なのが、管理薬剤師の位置づけです。

管理薬剤師は、薬局全体の業務管理・従業員の監督・衛生管理など、薬局運営の根幹を担う役割があります。こういった責任ある業務を担う管理薬剤師を業務委託で契約することは、実態上難しいケースがほとんどです。

管理薬剤師については、雇用契約を前提に考えることが安全です。


今の契約形態を見直すタイミング

業務委託で薬剤師と契約している薬局経営者の方は、一度現状を確認することをおすすめします。

契約書の内容と実態が一致しているか、指揮命令関係が生じていないか、フリーランス保護新法への対応ができているか—これらを確認しておくだけで、後からのトラブルを大きく防げます。

「うちの契約形態、これで大丈夫か確認したい」「採用強化を図りたい」「長く働いてもらうための職場にしていきたい」という段階からでも、お気軽にご相談ください。