薬局は、医療機関と連携しながら地域の患者さんを支える、なくてはならない存在です。一方で、その経営の現場では、特有の労務管理の課題が生じやすい業種でもあります。
税理士事務所での業務を通じて、薬局経営者の方からの相談に多く携わってきた経験から、今日は薬局で特に気をつけたい労務管理のポイントをお伝えします。
薬局の労務管理が難しい理由
薬局には、他の業種と異なる特有の事情があります。
薬剤師という国家資格を持つ専門職と、事務スタッフが混在している。処方箋の枚数によって業務量が大きく変動する。調剤報酬改定など、制度変更の影響を受けやすい。在宅業務の拡大により、勤務形態が複雑になっている——こういった事情が重なり、労務管理が複雑になりやすい業種です。
ポイント①:薬剤師の管理薬剤師手当と労働時間の管理
薬局には管理薬剤師を置く義務があります。管理薬剤師には、薬局全体の業務管理・従業員の監督・衛生管理など、通常の薬剤師業務に加えた責任があります。
管理薬剤師手当を支給しているケースは多いですが、その手当が「管理業務への対価」として適切に設定されているかどうかは、確認が必要です。
特に注意が必要なのが、管理薬剤師に残業代を支払っていないケースです。管理薬剤師であっても、労働基準法上の「管理監督者」には該当しないこともあります。つまり、残業代の支払い義務は通常の薬剤師同様必要なケースがあります。「管理薬剤師だから残業代は不要」という認識は、法律上誤りです。
ポイント②:事務スタッフの高い離職率への対応
薬局の事務スタッフは、離職率が高い傾向があります。処方箋の入力・会計・電話対応・在庫管理など、業務の幅が広い割に、給与水準が上がりにくい。研修体制が整っていないことも多く、「思っていた仕事と違った」というミスマッチが起きやすい。
短期離職が続くと、採用コストが積み上がり、残ったスタッフへの負担も増えます。
対策として有効なのは、入社前の業務説明を丁寧に行うこと、可能であれば職場見学も行い、社内の雰囲気をつかんでもらうことも大事です。入社後もほったらかしにせず、特に入社後1~2週間は丁寧なフォローを心がけましょう。
また、雇用契約書で業務内容と労働条件を明確にすることももちろん重要です。
また、事務スタッフのキャリアパスを示すことも、定着率の向上につながります。「ここで長く働くとどうなるのか」が見えないと、向上心のあるスタッフほど辞めていきます。
ポイント③:在宅業務拡大に伴う労働時間管理
近年、在宅医療への対応が薬局に求められるようになっています。患者の自宅や施設への訪問、医師・看護師との連携——こういった在宅業務が増えることで、労働時間の管理が複雑になっています。
特に注意が必要なのが、移動時間の扱いです。薬局から患者宅への移動時間は、原則として労働時間に該当します。「移動は業務外」という扱いをしていると、未払い残業代のリスクが生じます。
また、在宅業務は通常の調剤業務と異なり、突発的な対応が必要になることがあります。緊急の電話対応や休日の対応が「当たり前」になっていないか、きちんとオンコール手当などを支給しているか、一度確認することをおすすめします。
薬局に必要な労務管理の整備ポイント
以上3つのポイントを踏まえて、今すぐ確認してほしいことをまとめます。
管理薬剤師への残業代支払いを確認する
管理薬剤師が管理監督者にならない場合、残業代の支払いが必要です。管理薬剤師手当との関係を整理しておきましょう。
事務スタッフの雇用契約書・労働条件通知書を整える
業務内容・労働時間・賃金を書面で明確にしておく。ミスマッチを防ぎ、入社後のトラブルを減らせます。
在宅業務の労働時間を正確に把握する
移動時間を含めた実際の労働時間を記録する仕組みを作る。残業代の計算漏れを防ぎます。
就業規則等にカスハラ対応方針を追記する
前回の記事でお伝えした通り、2026年10月からカスハラ対策が義務化されます。薬局は患者・家族からのクレームが起きやすい業種でもあります。早めに対応方針を明記しておきましょう。
「薬局の労務、これで大丈夫か確認したい」という方へ
薬局特有の労務課題に対応するには、業種の実態を知っている専門家のサポートが効果的です。
「管理薬剤師の残業代が心配」「事務スタッフの離職が続いている」「在宅業務が増えて労働時間管理が難しくなってきた」——こういった段階からでも、お気軽にご相談ください。
